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賃貸住宅やオフィスビルのような投資用の不動産は、物件から毎月の賃料収入を得ることから収益物件といわれています。ちなみに英語ではcommercial real estate(営利目的の不動産)といいます。
日本では収入を得ることだけに着目した名称ですが、英語では利益を上げることをしっかり考えた名称です。かつて日本においては住宅が不足しており、貸主有利の市場であったこと、富裕層が貸主の大半を占めていたこと等から、収入を得ることだけを考慮していればよかった(リスクを考慮する必要がほとんどなかった)時代がありました。収益物件という名称はその時代の名残ということでしょう。借地借家法では借主の権利が強く守られていますが、これは貸主有利市場であった頃の名残です。
一方欧米では、不動産は投資の一手法として、リスクを検討・予測し、対策を行い、利益を上げる方法が研究されてきました。これらの投資手法が日本で取り入れられ始めたのはバブル景気崩壊後、不動産証券化が開始されてからです。とはいえ、不動産証券化以外では、まだまだ浸透していません。金融庁は、収益物件の評価は収益性に基づく収益還元法を用いるべきであるとしていますが、金融機関の担保評価では賃貸住宅の評価を一般の住宅と同様の積算評価(土地は市場性、建物は費用性)が行っているケースがあります。
収益還元法には、直接還元法(永久還元法と呼ばれることもあります)、DCF(Discounted Cash Flow)法等があります。今回は一般に利用される機会が多い直接還元法について解説しましょう。
「利回り」という言葉をご存じの方は多いと思います。不動産における「利回り」は、「収益」を「物件価格」で除したもの(図1)です。
紛らわしいのは、この「利回り」が複数種類存在することです。なぜなら「収益」が複数種類存在するからです。
図2に「収益」の種類を示します。日本において利用されることが比較的多い「収益」が①の満室想定賃料収入です。
収益物件の検索サイトが公表している「利回り」は①を「物件価格」で除した値を用いており、これを「表面利回り」と呼びます。「表面利回り」は高い値になりますが、これは空室リスクや運営経費といったコストを全く考慮していないからです。日本では、賃貸住宅関連の情報公開があまり進んでいません。賃料は住宅情報提供サイト等で公開されている募集賃料を参考にすることができますが、空室率については、以前は総務省の「住宅・土地統計調査」から算出することしかできませんでした。運営経費や資本的支出(大規模修繕費用等)についての情報は現時点においても公開情報がありません。
このような事情から、利用可能な情報のみで算出できる「表面利回り」が多用されることになったと考えられます。なお、情報公開が進んでいる欧米では「表面利回り」が使用されることはありません。
NOI(Net Operating Income:満室想定賃料収入から空室損失や運営経費を差し引いたもの)を「収益」として「物件価格」で除したものを「NOI利回り」と呼びます。「NOI利回り」は、欧米では物件の売買時の査定に利用されています。日本においても、日本不動産研究所やCBRE等が、投資家に対して「NOI利回り」の調査を定期的に実施し、公開しています。
NCF(Net Cash Flow:NOIから資本的支出を差し引いたもの)を「収益」として「物件価格」で除したものを「NCF利回り」と呼びます。「NCF利回り」は、欧米では所有している物件の査定を行うときに利用されていますが、日本では不動産鑑定士が収益物件の査定を行う際に、売買時、所有時に係わらず「NCF利回り」を利用しています。
「利回り」「収益」「物件価格」の関係がご理解いただけたと思います。3つの要素のうち2つがわかっていれば、残りの1つを算出することができます。
図1を「物件価格」を左辺にして変換したものを図3に示します。これが直接還元法による物件価格査定の式となります。
「利回り」の算出を行う際に分母となる「収益」の大きさは、①満室想定賃料収入>②NOI>③NCF、ですので、利回りについても、「表面利回り」>「NOI利回り」>「NCF利回り」となります。
満室想定賃料収入を「表面利回り」で除して求めた「物件価格」は、空室損失や運営経費など不確定部分(リスク)が大きいため、お勧めできません。「CRIX」の空室率や「空室対策ロボ」による賃料査定、「賃貸革命」による運営経費の査定等を利用することにより、現実的な「収益」であるNOIを用いた価格査定を行うことが望ましいのです。なお、「NOI利回り」は前述した日本不動産研究所やCBRE等の公表データを参考に設定すればよいでしょう
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