台湾の半導体生産大手TSMCの熊本県進出が賃貸住宅市場に与えた影響（その２）

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2023年5月のコラムにおいて、TSMC熊本県進出が熊本市の賃貸住宅市場に与えた影響について解説しました。TSMC第1工場は2024年2月に開所式が開催され、稼働を開始、2024年末に量産を開始する予定です。

また、第1工場に併設して第2工場が建設されることも発表されました。第1工場と合わせると約3,400人が働く一大拠点となります。さらに第3工場の建設も検討されているという報道があります。

TSMCの工場が建設されている熊本県菊陽町および周辺自治体の住宅や賃貸住宅開発も盛んに行われています。これに伴い、2023年3月に発表された公示地価では菊陽町の住宅地は9.7%上昇、7月に発表された菊陽町の「光の森3丁目県道住吉熊本線」の評価基準額は前年比19.0％上昇しています。

今回は、日本のホットスポットの一つである菊陽町の賃貸住宅市場について解説します。

TSMC工場周辺の生産年齢人口の推移

図1にTSMC工場周辺の生産年齢人口の推移を示します。

比較しやすいように2020年の生産年齢人口を100として指数化しています。

菊陽町には、以前から東京エレクトロン九州やソニーの画像センサーを製造しているソニーセミコンダクタマニュファクチャリング等、30社程度の半導体関連企業が集積し、約1万人が勤務しているセミコンテクノパークがあります。このため、通勤圏内である合志市や大津町も含めて生産年齢人口は増加傾向にありました。

菊陽町の生産年齢人口は一貫して増加しています。合志市と大津町では増加が若干弱まっていましたが、TSMC工場進出が動き始めた2022年には再び勢いを増しています。生産年齢人口が減少傾向にあった熊本市においても、減少幅が縮小しています。熊本県の45自治体のうち2020年以降に生産年齢人口が増加しているのは菊陽町および菊陽町に近隣している4自治体のみですので、TSMC進出効果の大きさが伺えます。

菊陽町は今後、さらなる人口流入が見込めるため、市制移行が視野に入ったと言われています。

図1： TSMC工場周辺の市町の生産年齢人口の推移 熊本県「熊本県の人口と世帯数」より作成

菊陽町における管理戸数の推移

図2にCRIXより作成した菊陽町における管理戸数の推移を示します。

比較を行いやすいように2020年10月を100として指数化しています。また1R、1K、1LDKを単身向け、2DKと2LDKをカップル向け、3DKと3LDKを家族向けとしています。

2020年10月比で管理戸数は、単身者向けが約2.2倍、カップル向けが約2.8倍、家族向けが約5.3倍に増加しています。TSMDは熊本工場本格稼働させるのに伴い、400人規模の駐在員（家族を含めれば約750人）が台湾から熊本に移り住むとしています。

このため、家族向けの賃貸住宅のニーズが高まったことが管理戸数の増加につながったと考えられます。

図2： 菊陽町における管理戸数（2020年10月＝100で指数化）の推移 CRIXより作成

部屋タイプ別の平均賃料の推移

図3に部屋タイプ別の平均賃料の推移を示します。

家族向けで広めのタイプである3LDKの賃料と単身者向けの1Rの賃料が上昇傾向となっています。急ピッチで住宅の供給が行われていることから、賃料の上昇は今のところ緩やかであることがわかります。

図3： 菊陽町における平均賃料の推移 CRIXより作成

2024年末のTSMCの量産開始に向けて、半導体関連企業の設備投資が菊陽町周辺で行われています。

道路の拡幅、高速道路の整備、新駅の設置等のインフラ整備も進んでいます。これに伴い、菊陽町周辺の賃貸住宅市場も当面活況を帯びると考えられます。