政令指定都市の賃貸住宅市場~川崎市

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不動産市場アナリスト : 藤井 和之
日本情報クリエイト株式会社 データ戦略室執行役員 : 林 宏

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国の統計調査には21大都市という区分があります。
これは東京都特別区(東京23区)に20の政令指定都市を加えたものです。21大都市は、日本の人口の29.5%、15歳~64歳の生産年齢人口の31.4%が集積※1しており、それぞれが大きな住宅市場です。
筆者は21大都市を、大都市型、独立都市型、学園都市型、地方中核都市型、地方都市型の5つに分類しています。
今回は21大都市のひとつである川崎市の賃貸住宅市場について確認しましょう。

 

川崎市の人口の特徴

川崎市は大都市型に分類されます。
図1に総務省「2020年国勢調査」から作成した、川崎市と全国の年齢別人口比のグラフを示します。

大都市型は、大学進学、就職の両方のタイミングで多くの若年者が流入することから、18歳~25歳の年齢別人口比が急激に上昇します。また若年者が集中し続けていることから、団塊ジュニア世代の年齢別人口比の山が団塊の世代の人口比の山よりも高くなるのが特徴です。

図1

図1:川崎市と全国の年齢別人口比|総務省「2020年国勢調査」より作成

 

川崎市の各月1日時点の世帯数と人口の推移

川崎市の「川崎市の世帯数・人口」から作成した川崎市の各月1日時点の世帯数と人口の推移を図2に示します。なお、2020年10月に世帯数、人口共に大きな減少がありますが、これは「2020年国勢調査」結果に基づく調整が行われた結果です。

川崎市の世帯数は4月~6月にかけて増加し、その後は年度末にかけて微減傾向となるサイクルを繰り返しながら、年単位では増加傾向で推移しています。
人口も同様のサイクルですが、7月~3月までの減少幅が世帯数よりも大きくなっています。なお、両者の関係から、4月~6月の増加期には多くの単身者が流入し、家族世帯は年間を通じて流出傾向にあることが読み取れます。このため2023年4月1日時点の川崎市の世帯当たり人数は2020年1月1日比▲0.06人の2.01人まで減少しています。

以上を踏まえてCRIXの指標を確認しましょう。

図2

図2:川崎市の各月1日時点の世帯数と人口の推移|川崎市「川崎市の世帯数・人口」より作成

 

CRIXの指標からみる川崎市の空室率と賃料の推移

CRIXから作成した川崎市の面積別空室率推移を図3に、面積別賃料指数(2020年1月=100)の推移を図4に示します。

コロナ禍の影響を強く受けたのは20㎡未満の賃貸住宅です。
単身者が増加傾向であるにもかかわらず20㎡未満の賃貸住宅の空室が増加したのは、コロナ禍で学生等の住民登録を伴わない層の流出があった可能性を示唆しています。

また、コロナ禍の初期には緊急事態宣言発令に伴いテレワーク実施率が急上昇しました。
このため、より広い賃貸住宅への住み替え需要が発生しました。これも20㎡未満の賃貸住宅の空室率を押し上げた要因の一つと考えられます。この影響で20㎡未満の賃貸住宅の賃料が長期にわたり低迷したのに対し、2020年中旬~2021年中旬にかけて、20㎡以上の賃貸住宅、特に30-50㎡の賃貸住宅の賃料は上昇しました。

図3

図3:川崎市の面積別空室率推移|CRIXより作成

図4

図4:川崎市の面積別賃料指数(2020年1月=100)の推移|CRIXより作成

 

賃貸住宅から分譲マンションへの住み替えによる空室率の上昇

一方で、東京23区の新築マンション価格が高騰したことから、デベロッパー各社は2021年度以降に周辺3県での新築マンションの供給を増やしました。
低金利政策を進めてきた日銀の黒田総裁の任期が迫ってきたこと、欧米各国の利上げ等から、日本においても金利が上昇する可能性が取りざたされるようになってきました。

このような背景から、神奈川県でも2021年度以降に新築マンションの成約数が増加しています(図5)。
賃料が上昇した20㎡以上の賃貸住宅から分譲マンションへの住み替えも増加した可能性が高く、これが2021年後半以降に20㎡以上の賃貸住宅の空室率を押し上げたと考えられます。特にファミリー層が多く入居する50㎡以上の賃貸住宅の空室率上昇が著しく、結果として2022年度以降に賃料が下落しています。

まん延防止等重点措置が終了し、企業や大学のコロナ対策のフェーズが変わった2022年中旬以降は単身者が主に入居する30㎡未満の賃貸住宅の空室率が回復に、賃料が上昇に転じました。

図5

図5:神奈川県の新築マンションの成約数と販売数の推移

 

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※1:総務省「2020年国勢調査」
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/index.html

 

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